メンズコスメメーカー「アンドユー」代表に聞く ヒット商品誕生の戦略と理念
市場拡大を続けるメンズメイク市場。今やその規模は約1,200億円となり、今後ますます拡大すると予測されています。そんな時代の到来を先読みしたかのように2019年に誕生したメンズコスメ・メーカー、アンドユー。大ヒット中の「ビズゴールド」ブランドは、働き盛りのビジネスパーソンをターゲットに”身だしなみを整える”というステルスメイクを打ち出しています。ヒットまでの道のり、企画開発の裏側など、根掘り葉掘りインタビューしてまいりました。
アイクリームからスタートした理由は「ビジネスパーソン向け」だから
ーーテレビや雑誌などで紹介され大人気の「クマクラッシャー」。一時期はAmazonでも品切れ状態になるほどの人気ぶりで、現在も売れ続けていると伺っています。
クマ社長 実際に使用してくださっている皆さまのクチコミのおかげです。さらに、ご友人へのプレゼントに選んでくださったり、SNSで紹介してくださることも非常に多く、改めて皆様のおかげだなと感謝しています。
ーーブランドの最初の製品にアイクリームを選んだ理由は?
クマ社長 働いている男性の場合は、「若く見られたい」とか「カッコよく見せたい」というよりも、「疲れているように見られたくない」という願望が大きいですよね。そして、メイクに抵抗がある人も圧倒的に多い。そうなると、メイクと言うよりも「身だしなみの一環として肌を美しく魅せるアイテム」が求められているんですね。そこで、疲れて見えるポイントである目もとから攻めることにしました。
ーー「盛る」のではなく「整える」ということですね。
クマ社長 そうなんです。でもコスメ初心者の男性には、アイクリームと言ってもピンと来ないようで(笑)。開発中、モニターさんに試してもらった時は「え?それ何?」と聞かれました。
ーーアイクリームの存在を知らなかったんですね。
クマ社長 衝撃的な出来事でしたが、このご意見が商品名に活かされました。アイクリームと銘打っても男性には響かない。もっとインパクトがあり、直感的に意味を感じ取ってもらえる名前にしようと思い、「クマクラッシャー」に決まりました。
ーー計算されていない生の声を聞く事って、大切ですね。
クマ社長 そうですね。何か商品を開発する時は、公開されているデータやネットの声から仮説を立てます。そのあと、座談会や非公開アンケートなどで定性的や定量的に検証する方法を取っています。
また、異業種の方との交流も積極的に深めておりまして、幅広い視野の構築を心がけています。この業界では常識な情報でも、異業種ではそうではない、常識ではない情報がたくさんあります。異業種の方々と接する事で、自分の常識だけで物事を判断するのではなく、広い視野を持つ事ができていると思います。
見た目が整っている=若々しい。だから主要成分も抗酸化にこだわる
ーー染めない白髪ケア「ブラックヘアクロウ」、面白い製品ですが、開発時の調査の結果でしょうか。
クマ社長 もちろん調査しました。その結果、40代の髪の悩みNo.1は白髪でした。解決方法は、抜くか染めるの二択しかなく、白髪の原因からアプローチする商品が市場になかったのが開発のきっかけになりました。でも、忙しくて染める時間を作れない、肌が敏感で染められないという方も多いんですよね。こうした時間や体質的な問題だけでなく金銭的な負担も減らしたい、そして頭皮も健やかに保ちたい。そうしたニーズにもマッチするものを、と考えた結果です。
ーー原因にアプローチする成分とは?
クマ社長 減少した黒髪の元となるチロシンと、その働きをサポートするヘマチンです。この二つの成分が、徐々に白髪を健やかな黒髪へとアプローチしていきます。また、黒色を作り出すメラノサイトは紫外線による活性酸素の影響を受けやすいので、強い抗酸化力を持つゴールド(金)も配合しています。
――ゴールドも配合されているのですね。重要性を教えてください。
クマ社長 ゴールドは希少性の高い成分ですね。市場に並んでいる女性用の化粧品でも配合は少なく、男性用化粧品では弊社調べでは世界初でした。ゴールドは「錆びない」とよく表現される、酸化しにくい強力な抗酸化作用があります。「年齢を重ねても錆びないビジネスパーソンに」という願いも込めています。
ーーさらに無添加処方で低刺激、これも男性には不可欠ですか?
クマ社長 そうなんです!私自身も肌が弱く、刺激を感じて使えないコスメが多かったので低刺激にもこだわっています。肌に刺激になると言われている成分でも、配合濃度を極めて低く設定することで刺激を抑えることもできます。自然派に執着しすぎるのではなく、低刺激な配合で必要な効果を維持しつつ、肌が弱い方でも毎日続けて使えるか、にこだわっています。
ーービズゴールドの原液ブースターにはレチノールが配合されていますよね。私も使用していますが、刺激を感じてトラブルになったことはありません。これも低刺激を意識した配合だからでしょうか?
クマ社長 実際にお使いくださったのですね、ありがとうございます。「原液ブースター」は、カプセル化したレチノールを配合しているので、刺激が低くA反応も出にくいのです。それだけでなく、カプセル化には浸透性を高めるというメリットもあるので、パフォーマンスと肌への負担軽減を両立させる設計が可能です。例えば、生姜をそのまま食べると刺激が強いですが、擦って餡の中に入れると食べやすいし吸収も良く体も温まる、といったイメージです。
ーー成分や処方についてもお詳しいですね。クマ社長は化粧品の研究を専門にされていたと聞いています。独立前の経験が活かされていますね。
クマ社長 そうですね。化粧品の研究職だけでなく、大学でも化学を専攻していたので、学生時代から会社員時代の経験は自分の財産ですね。
化粧品に疎い男性に向けたアピールは、入手しやすさとわかりやすさ
ーーコスメブランドを立ち上げたきっかけは?
クマ社長 2018年頃、これからはコスメ業界でもジェンダーレスが当たり前の時代になると予想し、夫婦やカップルで一緒に使うシェアドコスメ(男女兼用)ブランドを作ろうと考えたのがきっかけになりました。しかしニーズ調査をしたところ、男性用としてのニーズが高かったので、まずはメンズコスメを作ることにしました。現在は、商品すべて男女兼用となっているんですけどね。
ーー時代の変化を感じますね。現在のコアターゲット層と、ユーザーの性別年齢層を教えてください。
クマ社長 アンドユーの製品は、10~20代の「モテ」とは違い「ビジネスを成功させるツール」という位置づけなので、コアターゲットは30〜40代のビジネスパーソンです。実際のユーザーは40代前半がメインで、男女比は7:3です。
――設定しているコアターゲットと実際のユーザーにギャップがありませんね。読み通り?
クマ社長 はい。男性が購入しやすいように、販売ルートにAmazonや百貨店を選択したことも功を奏したと思います。ダークカラーにクマやカラスをあしらったパッケージは男性向けに採用しましたが、この購買層の女性にも好評でした。これは本当に予想外で、嬉しい展開となりました。現在は女性ユーザーも増えてきているので、今後は中性的なデザインで展開してみてもいいかな、と思ったりしています。そうすればバラエティストアでも取り扱いしやすいかな、と。
ーーシェアドコスメで工夫したのはどのような点ですか?
クマ社長 価格設定とネーミングですね。自社アンケートを実施したところ、「夫とシェアする化粧品にはお金をかけたくない!」という女性の声が多く集まったので、まずは気軽に購入できる親近感のある価格設定にこだわりました。次は、男性が心惹かれるスタイリッシュなデザインやネーミングを追求。アイクリームと書いても「アイスクリーム」と読む人もいましたので、コスメに不慣れな男性に向けた「わかりやすさ」を重視しました。商品に実力があっても、まずは心に響かなければスタートラインにすら立てませんから!
――認知をどのように上げていくか、に焦点を絞ったのですね。
クマ社長 そうです。印象に残るデザインと商品名はとても大切です。独り歩きしやすいほうが宣伝費を抑えられるので、結果的にお客様に適正な価格で提供できると踏みました。
ーー目を惹くパッケージデザインで印象を残し、広告費削減&適正価格! 御社ならではの付加価値ですね!
クマ社長 そうですね。 高価な原料を配合しながらも肌に優しく、価格が適正であること。有名ブランドや通販コスメと異なり、宣伝やパッケージなどの無駄を省いて「お客様の悩みを解決する」という本質的な部分にフォーカスしている点は、まさに弊社の付加価値ですね。
ーー付加価値を多くの人に知ってもらう努力やアイデアを教えてください。
クマ社長 ご縁を大切にすることです。たとえば、見知らぬ人にSNSで声をかけてもらったら大真面目に応える。イベントに呼ばれたら、アンドユーと出会う人にできるだけ楽しんでいただけるよう工夫するなど、一つひとつのご縁をどれも大切にするんです。実際に、そうしたご縁がもとで、TVでご紹介いただくなど、想像もしなかった機会に繋がっていくんですね。
経営者の仕事は「意思決定に責任と自信を持つ」こと
ーークマ社長ご自身が自己啓発として継続していることはありますか?
クマ社長 毎日の読書です。理由は2つありまして、1つは成功している先人の考えを学び仕事に役立てたいということ。2つめは、自分に気づきを与えること。私は間違いを人から指摘されるとプライドが許さないタイプです。自分で気づく事を尊重したいんですね。なので、自分の間違いに気づくために毎日読書を続けているような感じです(笑)。
ーーなるほど(笑)。どのような本が心に響きましたか?
クマ社長 人生で影響を受けた本の1つは『人を動かす(デール・カーネギー著)』です。この本の根底には「人は絶対に自分のことを悪いとは思わない」という考えがあります。なので、アンドユーでは目元のクマや白髪、ニオイのある人を揶揄や非難することはしません。一部ですが、その方が自然でカッコいい、好きという価値観もあるからです。その価値も認めつつ、悩んでいる方に解決方法を提案するスタンスでいきたいですね。
ーーなるほど、既に仕事に採り入れていらっしゃるんですね。愛されるメーカーになるために大切な事とは何でしょうか?
クマ社長 綺麗事ではなく、どんな状況でもお客様の立場になって考えることでしょうか。お客様の気持ちを差し置いて「売上目標何%アップ!」と掲げるのでは本末転倒。D2Cなどの化粧品ベンチャーが毎年沢山生まれても続かない理由の一つは、無理な売上目標の設定です。「まずは5年。いや10年続ける!」ことを目標にする。そうすれば、意思決定するときの選択肢が違ってきます。たとえば、目の前の売上ではなく「半年発売を延期してもお客様に愛される商品を作ろう!」とか「オリジナリティある商品を長い目で育てて行こう!」と意思決定できます。
ーー素敵です!でもクマ社長も、一度くらいは無理な売上目標を設定したことがあるのでは!?
クマ社長 めっちゃあります(笑)。今の会社を起こす前の会社員時代に、無理のあるノルマ設定で動いていた商品を担当したことがあります。無理がありますから当然、最初の3年は結果が出ませんでした。それに限界を感じ、社長に開発数のノルマ廃止、評価制度の見直しを直談判しました。「生意気だ!」とめちゃめちゃ怒られ(笑)、これは絶対にクビになるなと覚悟しましたが、意外にも「そこまで言うならやってみろ!」と返ってきて。その後、改善策を実行して商品は大ヒット。結果オーライとなりましたが、今ならもう少し謙虚にできたでしょうね(笑)。たくさん失敗しながらも、「お客様にとって本当にいいものを作れば買っていただける」「お客様の笑顔が一番嬉しい」と感じられる経験ができた会社員時代でした。何の実績もない生意気な若僧を信頼して挑戦させてくれた社長には、今でも大変感謝しています。
ーーそれでは経営者に必要な事は何だと思いますか?
クマ社長 自分の意思決定に責任を持つことです。決定に「正解」はありませんが、大袈裟に言えば、お客様や社員、関係者の人生を左右することもあります。人生においても、自分の決定には責任を持つべきだと考えています。
ーー意思決定において迷ったりプレッシャーを感じる事も多々あると思います。クマ社長にとってのメンター(相談相手)はどなたですか?
クマ社長 すぐ周りにいる仲間です。私の周りに形成されているコミュニティの方々、というか。Face to Faceのお付き合いの方ばかりではなく、SNSを通じて相談することもありますし、そこから仲良くなった方もいます。そういった繋がりの中ではありがたいことに、なぜか気にかけてくれる方も多いんですよね。気をつけていることは、いろいろな立場や考え方があるので、意見が違っても最後まで聞いて理由を確認するようにしています。煮詰まっている時に全然違う選択肢に気づくこともあり、周りの方には本当に感謝しています。思い出したら泣けてきました……。
ーーとっても愛されていますね。皆様あってのクマ社長&アンドユーなのですね!
クマ社長 そうですね。ビズゴールド商品のヒットも私自身の成長も、周りにいてくださるお客様や信頼できる仲間のおかげだと思います。実は社名の「アンドユー」の由来も皆様とのご縁を大切にしたいという理念から生まれているんです。“あなた(お客様)と共に生きている”という気持ちを込めました。
ーー現在開発中の商品について教えてください。開発背景や理念を知ったことで、今後のリリースがさらに楽しみになってきました!
クマ社長 現在もお客様の声を徹底的にヒアリングし、やっと納得のいく形になりはじめています。アンドユーらしい着目点やパッケージデザイン、ネーミングで、春頃に新商品をリリース予定です。ご期待ください!
そして今後は、オーダーメイドのスーツ店やこだわりの靴屋、文房具店、フレッシャーズのイベントなどでも商品展開していきたいと思っています。
これからも、お客様や仲間たち、「あなた」と一緒に、新しい美容やビジネススキルを学びつつ、お互いに自己変革して行けるような商品作りをしていきたいと思っています。
「世のため人のため」とは綺麗事ではなく、人間を突き動かす源であり商いの本質なのだ。アンドユーさんの理念に触れた私は、そんなことを再確認することとなりました。
とは言え「売上目標達成」というに翻弄されてしまうのがリアルな日常。だからこそ、お客様目線に立ち戻る時間を意識的に設けていきたいものです。当然だけど忘れられがちな「人のため」という想い。これこそが、長く愛されるブランドに必要な気持ちなのだと再確認できたインタビューとなりました。
取材・文・写真/鬼龍院雪乃
大手IT企業勤務中に記者を志し、雑誌制作を幅広く扱う制作会社へ移籍。女性向けだけでなく、経済やビジネスなど幅広い分野を手がけ、2007年に独立。結婚・育児を機に自らのライフワークでもある美容・健康分野にシフトし、雑誌やWEBメディア等で活躍している。Twitter(@yukino_kiryuin)
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