訪問美容ってどう?第一線で活躍する美容師の保持資格とマインドを赤裸々に聞きました!(前半)
ヘア業界では、訪問美容が脚光を浴びています
(今は新型ウィルスの影響もあり、自粛中かもしれませんが)。
美容業界のなかでは一番世相を取り入れるのが早い美容室の動きは、ネイルやエステの皆様も要チェック!ということで、今回から2回に連続で介護福祉士であり福祉美容師である朝倉由奈さんのお話をお届けします。
美容師と介護福祉士の両方を保持する「訪問美容」の仕事ってどう?
−−−−朝倉さんのお仕事を簡単に説明してください。
全国に支店を展開する「ビーサポ」に所属する美容師です。私の拠点は湘南の美容室「ヘア&リゾートアンツ」になります。一般病院・老人ホーム・デイケアサービス・サービス付き高齢者向け住宅・小規模多機能ホーム・個人病院・ご自宅など、外出困難なお客様のもとへ足を運ぶ日々を送っています。
−−−−介護福祉士と福祉美容師の資格をお持ちですね。
はい。私の母は多発性硬化症という難病で、私が高校生の頃には杖歩行になりました。音もなく病状が進んでいく母の姿を目てきたので、素直に「もっと福祉や介護について知りたい!」と介護福祉士を志しました。
一方で、「かわいくなりたい」、「何かをかわいくしたい」という想いが子どものころから強くて、美容師になりたいなって思っていました。
でも、私にとって最も大事なことは母の幸せだったので、高校卒業後は介護福祉士の学校に進学しようと思っていたのですが、「自分の好きなことをやりなさい」と母に叱咤されてしまって。
−−−−お母さんのことと、ご自身の夢と。葛藤があったのですね。
「誰かのために頑張ることで、自分の夢を捨てていいのかな?」と、母に叱咤されて気がついて。美容師の学校に進学すると、介護の勉強はできないし、でも母の病状は進行性なのもあり介護優先では?と悩みました。「美容師」と「介護福祉士」の共通点を探して辿り着いたのが、二つの資格を両方取得できる三年制の短期大学でした。自分の夢だけを追うことへの後ろめたさが一瞬でなくなり、目の前が開けた感じでした。ここなら、自分の夢と母の幸せを同時に叶えられる!と。
−−−−美容と介護を同時に学ぶ。難しそうです!
美容と福祉を別のものと考える人が多いですね。でも、私はこの二つを同時に学ぶことで、「キレイになる」ことは介護を必要としている人々の心を元気にできる、ということを知りました。美容と介護を結びつけると、ただ介助する、ただ整髪する、というだけではないプラスαの喜びを届けられます。外出困難な方に技術を提供できるのが、両方を学ぶ最大のメリットです。
美容と介護の共通点はQOLの向上。美は心身を元気にする!
−−−−訪問美容の大切さを実感したのはいつごろでしょうか。
学生時代に施設を訪問してカットやメイクをした時からですね。入居されている皆さんは、仕方なく髪を伸びっぱなしにされていたようで、流行を取り入れたスタイルにカットさせていただいたら「外出したい!」と言ってくださいました。また、季節の色を取り入れたメイクをさせていただいたら、パッと花が咲いたような笑顔を見せてくれたり。
体が不自由になったことで、本来できることや、何かをしたいというポジティブな気持ちを諦めている方が多いことを知りました。同時に、「キレイになりたくても外に出たくても、そのきっかけがなくて困っている方がこんなにもたくさんいる」という現実にショックも受けましたね。
キレイになった人はみなさん心が前向きになり、会話が増えるのですよね。介護と美容を学ぶ短期大学時代は、「美容は人の心を豊かにする」と確信できる瞬間に何度も出合えました。
−−−−まさに「美容の威力」を感じたのですね。
そうなんです。美容に興味がなくなるのは、「加齢」よりも「体力の低下」が影響しています。体力が落ちて思うように動けない→何かする意欲がなくなる→身だしなみが億劫→外出しなくなる、という負のスパイラルに陥いってしまうのです。
介護が必要な方々は、ご自身が気付かないうちに“身だしなみ”という美容から離れていってしまっている。外出困難になることで、身だしなみの必要がなくなり、いつの間にか身なりを気にしない生活が当たり前になってしまっている。
私たち福祉美容師がポジティブな声がけをしていくことで、その方の中に眠っている「キレイになりたい」、「かっこよくいたい」という気持ちを引き出していけるんだな、と思いました。
−−−−気持ちがポジティブになることは、心身の回復にもつながるのですね!
はい。体の不自由な方のお手伝いをするのが介護福祉士や福祉美容師の仕事であって、本人が出来ることややりたいことを奪ってはいけません。もっと心の声に耳を傾けて、お客様の心身の状況を観察しながら、さまざまな工夫を提案してくべきだです。なぜなら、体が不自由になったことで、たくさんのことを諦めてしまっている可能性が高いからです。
安全第一の環境でご本人ができないことを介助しながら、生きていることが楽しくなるエッセンスも取り入れていくことが介護福祉士、そして福祉美容師の役目なのだと思います。心が明るくなることは、これまで出来なかったことを出来るようになるきっかけになり、QOLの向上と健康寿命につながりますから。
美容は贅沢じゃない。この意識を変えずして未来は語れない
−−−−短大卒業後はどうされたのでしょうか。
最初に、地元の美容院にアシスタントとして入社しました。でも、「このままここで働いていても、介護される側の気持ちは学べない」と感じ、介護の現場に踏み込みたいと思うようになりました。自己満足で終わらせたくなかったし、体の不自由な方の不安や苛立ちを臨機応変に受け止め、その方の目線で世界を見られるようになりたかったのです。
ただカットすれば良い、キレイにメイクすれば良い、それだけで終わらないのが私が目指す福祉美容師。そこで一旦美容師としての仕事を休み、福祉施設で介護福祉士として2年間勤めました。
−−−−その後、現在の美容室「アンツ」で福祉美容師として活動開始されたのですね。
面接でオーナーが話してくれた会社の理念にとても共感しました。この美容室なら私が追い求めている福祉美容師の仕事ができる!と感じました。
−−−−どのような理念?
「地域のすべての方に、美容を通じて素敵な人生を送るお手伝いを」。
この言葉にすべてが詰まっているなと感じました。綺麗事で終わらせるのではなく、実践できるのではと思いました。とはいえ、日本の介護業界は過渡期。まだまだ改善しなくてはならないことが山積みなので、課題はたくさんありますけどね。私の思い描く理想にはまだまだ辿り着けていません。
−−−−介護施設の待遇、介護福祉士の意識など、様々な問題や事件が発生しています。どう感じていますか?
残念ながら、とても親切とは言えない施設が少なくないのも事実です。働いている側に余裕がない、ということが一番の原因だと思います。
−−−−どのような点でそう感じますか?
福祉というと、いまだにボランティアのイメージが払拭されていないことは非常に問題ですね。給与面を充実させれば良いというだけではなく、休暇や勤務体制を見直すことで働く側の心身のゆとりを確保し、人手不足を解消するなどの労働環境を改善していかなければ解決できないと思います。介護士にとっては、生死に関わる責任ある日常の仕事ですからね。
−−−−美容業界と介護業界が力を合わせることができたなら、日本の福祉の未来は明るくなる気がします。
その通りで、美容と介護は異業種ではなく、どちらも人間に与えられた最低限の営みだと思っています。「キレイ」や「かっこいい」を叶えるだけで、新しいことにチャレンジしようという気持ちが湧いてくる、つまり、怪我や病気がきっかけで体が不自由になった方々も、リハビリに積極的になるなど身体機能の回復にも大きく影響するということです。
それなのに、おしゃれなヘアスタイルをすることや、メイクやネイルを施すこと、トリートメントをすることが贅沢な行為だと見なされるのは、とても残念で仕方ありません。むしろ、先進国としてナンセンスだとしか思えない!
どのような環境にいようが、老若男女すべての方が身だしなみを整える権利があるということを自覚していただくような働きがけを、技術を持ったプロがお伝えしていけたらいいですね。
(後半に続く)
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