「キレイはリハビリを越える」 福祉美容の常識を変える新進気鋭の起業家・上原孝行さんにインタビュー
早いもので連載も12回目。今回はインタビューです!
美容師資格を利用したこれからの新ビジネスとは?
旧態依然とした福祉美容の常識に斬り込む若き起業家、上原孝行さん。管理美容師と作業療法士のダブルライセンスを携え、現在の福祉美容を取り巻く環境に一石投じるべく2020年4月に福祉美容チームである 訪問美容ステーションb−guru(べーぐる)を立ち上げました。
上原さんの存在を知ったのは約1年前。私には高齢の祖母がいたこともあり、高齢者など外出困難な人々にとって美容やオシャレが遠い存在である現状に常々疑問を抱いていました。「誰だって身奇麗でいたいしオシャレしたいはず」と思いつつSNSを通じ様々な美容アカウントの方々の書き込みを読んでいました。
その中でひと際異彩を放っていたのが、上原さんです。
現代の福祉美容業界が抱える問題や、今ひとつ進みきらない日本のバリアフリー問題など、上原さんの呟き一つひとつに大きく頷けたのです。彼なら今の福祉美容の壁を壊せるかもしれない。きっとすごい人になる。無名のうちに取材しておきたい!」。そう思いました。有名になってからではアポ取るのが大変ですから!(予想通り、現在知名度アップで注目株になっております)そんな上原さんは、走りながら考えるというよりは、思いついたら考えると同時に体当たりでぶつかっていくような超行動派。選んだ起業という道も、尋常ではない行動力と発想力あってのものでした。
今回は、そんな類い稀なポジティブさを装備した上原さんイズムを交えつつ、福祉美容の新世界についてお話を伺いました。
進歩のない日本の福祉美容。変わらないなら僕が変える!
−−−−「訪問ステーションb−guru」は“日本初の医療福祉専門美容チーム”とありますが、どのような活動をされているのですか?
上原孝行さん(以下敬称略) 地域包括ケアシステムを目指す福祉専門の美容チームです。外出困難なご利用者様を、そのご家族だけではなく、病院や医師、自治会、地域包括センターなど、地域が一丸となって支え合える社会の実現を目指しています。
−−−−ご利用者様には高齢の方が多いのですか?
上原 はい。その他にも、心身に障害をお持ちの方、外出困難な方の介護や介助などで家を離れられにくい方、妊娠中や育児中の方など、様々な年齢層の方がいらっしゃいます。
−−−−そう考えると、福祉は身近な世界だと実感します。ところで上原さんは、管理美容師と作業療法士の二つの資格をお持ちですね。
上原 割と勢いだけで生きてきたタイプなんですが(笑)、精神論だけの起業家では誰かを説得するにも納得させるにも不十分だと思っています。起業して世間の皆様に認めてもらうためには、この二つの資格が必要でした。
僕は組織のトップに立ちたいと言うよりも、日本の福祉美容業界に物足りなさを感じすぎていて居ても立ってもいられない! という心境で起業を目指したので、実力と経験だけではなく、大きな組織に立ち向かえる肩書きも欲しかったのです。
−−−−現在の福祉美容業界に、どのような物足りなさを感じていますか?
上原 閉鎖的で保守的なところですね。良いか悪いかはここでは触れませんが、少なくとも進歩のないまま閉ざされている状況に沢山の人が困っているのは事実です。
たとえば、施設や病院で暮す方や、外出困難で自宅から出られない方のヘアカットやスタイリングは、充実とはかけ離れた状況です。コミュニケーションなしで必要最低限なケアをこなすだけということも多々あります。キレイに、カッコ良くなるための理美容なのに、これでは美容が楽しいものではなくなってしまいますよね。
−−−−いまだに福祉を「ボランティア」というイメージを持つ人も少なくありません。それが原因でしょうか。
上原 そうですね。ボランティアというイメージだから、日常生活に支障がない程度にキレイにすれば良い「最低限のサービス」という意識が生まれているような気がします。本来は、心身に障害があっても、育児中のお母様も、どんな人でもキレイでいる権利があるんです。
上原 あとは、美容のプロとしてヘアカットやメイク、ネイルケアができても、お客様の心身に不調が起こった時に対応できない。またその逆で、お客様の心身のケアが出来ても、美容面での気付きが不十分だったりします。
そして、そうした現状に問題を感じている僕のような人間が福祉美容の活動を広げようとしても、門戸が閉ざされていて施設へ入り込む事も困難です。今の福祉美容業界に君臨するトップ層のみなさんの意識改革も考えますが、みなさん頑固なのでそれは恐らく無理です(笑)!
−−−−私も同じように感じています! しかし私ではどのような声を挙げていけばよいかわかりません。
上原 僕を取材して記事にしてくださるだけでとてもありがたいです。なぜならば、みなさんの応援やご協力があれば、僕が頑張れるからです(笑)。業界が変わるつもりがないのなら、僕が新しい福祉美容のあり方をぶちかまして業界全体を変えてやろう! と思っています。
知識と技術で説得できない事は、資格という名の鎧を纏って主張する
−−−−感激して惚れそうです!そんな上原さんのご経歴も気になります。
上原 高校生の時の夢が作業療法士でして、医療系専門学校に進学しました。しかしちょっと遊びすぎてしまいまして、成績最下位で中退しました……。とことん自信喪失した時期ですね。そこで「現実から逃げよう!」と決めて県外の住み込みバイトを選んだのです。
−−−−「逃げる」と決めて徹底して逃げた、と(笑)。
上原 はい。で、そのバイトが軽井沢プリンスホテルでウエディング担当のベルボーイに所属されたのです。そこで美容の素晴らしさと可能性に夢中になりました。
美容って、本当に人を変身させますよね! 表情や振る舞いが輝きだすというか。美容ってこんなにも人を輝かせる力を持つんだ〜、と初めて実感しました。そしてもっと美容に関わりたいと思う日々が続き、ふと通り掛かったトータルビューティーサロンに魅力を感じ、飛び込みで「働かせてください!」と直談判したのです。
−−−−その日にいきなり直談判!?
上原 あ、もちろんダメもとですよ! でも本気でした。その気持ちが伝わったのか、掃除洗濯という雑用係として採用していただけました。そして、そこで働きながら美容学校に通い、美容師の資格を取得したのです。
−−−−大手ヘアサロンではチーフもご経験されているそうですね。
上原 はい。前述のサロンを退社し、大手ヘアサロン HAIR &MAKE EARTH 神楽坂店に就職しまして、そこでスタイリストからチーフへ昇格して急成長を遂げました! ですので、高校時代の夢である介護の世界はすっかり忘却してました(笑)。でもその頃、担当していたお客様にお医者様がいらっしゃいまして、その方から「うちの病院で訪問カットをしてほしい」と依頼されたのです。
−−−−ターニングポイント?
上原 自分が作業療法士を目指していた事を思い出した出来事でした。そのお医者様が「キレイになって外出を楽しみたいと言う患者さんがたくさんいます。美容には人の心身を明るくするリハビリのような効果があるんですよ」とおっしゃいました。
−−−−素敵なお医者様です。
上原 ですよね! 胸が燃え上がるような感覚が生まれました。
あ、「燃え上がる」で思い出しましたが、ちょうどその頃僕の住むアパートがとある住民の火の不始末で燃え上がりまして(全焼)、住む家がなくなって野宿してたんです。その野宿先の公園で色々考えました。生きている事が不思議だな、って。
−−−−サラッと言いましたが、とんでもない出来事です……
上原 でも、あの野宿は自分と向き合う大切な時間でしたね。お医者様の「美容にはリハビリのような効果がある」と言う言葉、これは医療従事者だからこその気付きだし、医療従事者の発言だからこそ説得力がある。僕がそれを立証するには美容師の資格だけではだめなんです。だから作業療法士の資格が必要だった。
−−−−なるほど。鎧に盾に剣。完全防備で斬り込もうというわけですね。
上原 そうです! 知識、技術、資格が揃ってなんぼです。だって「美容もリハビリの一つ」というエビデンス、これは百戦錬磨かつ医療に携わる人間じゃないと主張できないんです。それに気付き、専門学校の作業療法学科に再入学して最初の夢以上の何かを叶えよう! と決意したのです。夜の公園で。
−−−−(爆笑)。
緊急事態宣言下で得たものは、事業成功の鍵となる街の特性
−−−−再入学した専門学校は卒業できましたか?
上原 こう見えて、僕は同じ失敗は繰り返しません。成績はトップクラスで学生代表として卒業しました。一度失敗するのって、成功の秘訣なんだなと実感しました。あ、失敗した事の逆をやるだけなんですけどね(笑)。
−−−−万事振り切れていてすごいです! 就職もバッチリ?
上原 日本一と名高いリハビリ専門の病院に就職し、船橋の病院に配属されました。そこで日本一のチーム医療を学びました。その頃に出会ったのが、脊髄の病気でリハビリ中の中学生の女の子。同僚スタッフから「AKB48の長濱ねるちゃんみたいになりたいと言う女の子がいるから、スタイリングしてあげてよ!」と声をかけられ、ヘアカットとスタイリングをさせていただきました。すると、下向きだった彼女がすごく喜んでくれて。美容の力を再確認した瞬間でした。
よし、僕は間違っていない。リハビリの知識と技術を積んで理想の福祉美容を実現するんだ! と改めて誓いました。
−−−−そして昨年、いよいよ起業ですね?
上原 はい。2020年4月、33歳で訪問美容事業を立ち上げました。リハビリの専門家としては初の訪問美容の起業です。これまでの人脈や土地勘もある船橋を選びました。その土地で培った人脈や信頼関係は、医療機関やケア施設などとの密な連携を取る時に強力な武器となりますからね。
−−−−素晴らしいです。ご利用者数も右肩上がりだと聞いています。成功の秘訣は?
上原 どの業種にも言える事ですが、やはりご利用者様のヒアリングやアンケート評価などを集積してデータ化することだと思います。同じ病気でも天候や気温によって症状の出方も異なるし、病状の進行も個人差がある。データとして残しておけば、お客様に納得していただく材料にもなるし、今の自分に足りない物や将来備えておくべき要素が見えてくると思うんです。ただこなして次に行く、の繰り返しではもったいないと思うんです。一人ひとり、一つひとつを積み重ね、様々なご利用者様と真剣に向き合っていると新たな発見はたくさんあります!
あとは、業種の壁に捕われずに挑戦することですかね。
−−−−異業種ですか? 具体例を教えてください。
上原 副業でウーバーイーツ始めました!
−−−−想定外すぎます!
上原 (笑)。と言いますのは、起業した日の翌日にコロナ感染者拡大の影響で緊急事態宣言が発令され、業務の全てが止まりました。さすがに頭が真っ白になりました。だけどじっとしてもいられない。そこで思い切って「資金集めの時期だ!」と腹を括って選んだのが、ウーバーイーツ。あ、笑いましたね? でもこれ、僕の事業にとても重要な選択だったんです。
−−−−自転車で配達をすることが?
上原 はい。どんな人たちが住んでいて、お客様はなぜ宅配を選んだのか、街のバリアフリーの状況はどうなっているのか、車椅子でも入れるトイレはどこにあるのか等、外出困難なご利用者様が快適に過ごせるようになるために知らなければならない情報が収集できるからです。さらに事業存続の資金も調達できる!
−−−−なるほど! 外出しない、できないという消費者のニーズや生活環境をリサーチできるわけですね?
上原 そうです。他にも段差調査や緊急避難場所、病院、それらまでの最適ルートなど、街の地域性を知り尽くせる。本当に勉強になります。走りまくりましたね。おかげさまで配達回数は2,000回を越え、報酬は最高ランクの「ダイヤモンド」です。
−−−−毎度やることが半端なくて爽快です。
上原 ありがとうございます。あとは、関連組織に直談判ですね。「勉強させてください!」とか「協力し合いませんか?」とか。
−−−−私、それがなかなか出来ないんです……
上原 プライドを捨ててください。自分の夢を叶えるためですから! 僕も最近また素敵な出会いがありまして、「wheeLog」という街のバリアフリーマップアプリを立ち上げた織田友理子さんという方です。実は織田さんご本人が車椅子ユーザーなのです。全ての人が暮しやすい街を作りたいという想いで立ち上げたのが、この「wheeLog」なのです。
−−−−船橋がバリアフリーの最先端の街になるかもしれませんね!
上原 そうなんです。元々船橋はバリアフリーに注力している街ですし、様々なプロジェクト、自治体の力、僕の事業を合わせていけば、これまでにない本当の意味での「バリアフリー社会」を実現できると思っています。
−−−−上辺だけじゃないバリアフリー社会。実行するにあたって、資格もかなりの強みになっています。
上原 成功の秘訣は行動力だと思っていますが、今の社会で大組織と肩を並べるには行動力や精神論だけでは通用しないということもわかっています。資格も経験も組織力もないのでは、戦力外。戦いたい場所があるなら、その場所で効力を持つ資格を持つべきです。僕の場合は、作業療法士と管理美容師。このダブルライセンスがあるから、安全安心を提供できる。人材育成の知識もあるので、チーム力を高める際にも役立ちます。目標から逆算するというか、その辺は計算高く考えて行動しました。
−−−−まさに鉄壁防御。行き当たりばったりのラッキーマンかと思いきや、ひたすら前向きで努力家です。
上原 ありがとうございます(笑)。良くも悪くもアクシデントは多かったように思いますが、苦境に立たされると爆発的なパワーやイメージが湧くことってありません? 僕はその相関関係を利用してきたような気がします。
−−−−すべての経験は、活かすも殺すも自分次第、ですね!
上原 そう思います。僕のような業種だけではなく、全ての人に言えると思います。「休みが少ない=学べるチャンス」、「住む家が焼かれて野宿=生きていることに感謝できる」など、ちょっと極端ですが、どん底の時期はたくさんの大切なことに気付けるチャンスだと思うのです。しかも僕はまだ若くて体力もある。だから、今のこの暗雲立ちこめる時期も、乗り切るどころか成長していく自信さえあるのです。
福祉の常識をアップデートして全国バリアフリー化を目指す
−−−−現在も新たな事に挑戦しているそうですね。
上原 まだ詳しくお伝えする事ができなくて残念なのですが、今年の秋に、福祉美容業務の一環として世界的なイベントに参加する予定です。そのプロジェクトでの出会いもとても刺激になりましたね。出会いと言いますか、僕が一方的に直談判して無理矢理会いにいってプロジェクトに参加できることになったのですが(笑)。そのプロジェクトのリーダーは僕に、「技術はやれば付いてくる。本当に必要なのは、爆発的な行動力。その行動力があなたにはある」と言ってくださいました。
−−−−そのプロジェクトが成功を修めた際はまた取材させてください。
上原 もちろんです!
−−−−では、中長期的な目標は?
上原 バリアフリーの美容室を作りたいですね。そこで繋がるのが、前述したウーバーイーツや「weelog」のバリアフリーマップです。バリアフリーの調査、日時によって変化する人の流れ、病院や訪問看護ステーション時間帯やアクセスなど、美容室を立ち上げる際の場所選び役立ちます。
−−−−すでに伏線を張っていたわけですね!
上原 スタートしてから足りない物がないよう万全の体勢を整えておきたいのです。そして、その美容室にはカフェを併設して、誰もが気軽に立ち寄れるコミュニティの場にしたいのです。そこは、僕や他の作業療法士がいつも常駐している安心と安全が備わった場所。そんな場所が街には絶対に必要なんです。そして最終的には、日本の福祉のイメージを変えるべく、街を丸ごとバリアフリー化する活動を全国に広めていきたいですね。
−−−−美容業界に携わる人間の一人として、私も勉強になりました。
上原 エステサロンやネイルサロンのみなさんともコラボしてみたいなと思っています! これからは美意識が高い人だけが美容に夢中になる時代ではなくなります。だからこそ、美容のプロのみなさんにも理想的な福祉美容やバリアフリーとはどういうものなのかを知っていただきたいのです。お互いの専門性を持ち寄って一緒に美容の未来ついて考えていけたら素敵ですよね! キレイになる、カッコ良くなるというのは、リハビリ同等、いや人によってはそれ以上の生きる力を与えてくれますから。そして僕自信も、美容業界のみなさんの技術や発想にももっと触れていきたいですね。
つい応援したくなる、つい話を聞き入ってしまう。まさに“人たらし”とでも言いたくなるような魅力を持つ上原さん。その魅力と行動力は b-guruの発展のみならず、これからの日本のバリアフリー社会の発展にも不可欠だと私は確信しています。
「夢は壮大でいいんです。壮大じゃなければ想像がふくらまない。無理だ、諦めろと周りが言っても僕には聞こえない。だって、これまでもやりたいことを叶えてきたから。他人よりも自分を信じます」
上原さんのこの言葉、取材時に聞いたときも、記事を書いている今も、胸熱。今、経営や展開で新たな一歩を踏み出したいサロンのみなさんも、この「圧倒的な行動力」の実行、オススメです!
取材・文 鬼龍院雪乃
youtubeはじめました!登録よろしくおねがいします♡
【NOT SPONSORED】この記事はesthete編集部オリジナル記事です。メーカー提供の情報・アイテムを含みます。